―― 原作を読んだ感想を聞かせてください

 やはり原作を執筆された時代がずいぶん昔なので、人間のすれ違いの原因となってくる電話や交通手段などの道具立てが今とはまったく違いますね。ドラマ化を想定しながら読みましたので、特にそういう印象があります。これをどうドラマにするのだろうと思いながら、興味深く拝読しました。

―― そして、実際に台本を読まれて、いかがでしたか?


 今回の脚本では、原作で描かれている背景や道具立てをほとんど抜き去り、原作の人間関係だけを残しているところが、思い切りがよく、なるほどと思いました。人間だけを取り上げてみれば、時代はあまり関係ないということを改めて感じました。ただ、時代設定の違いや、脚本家が女性ということもあるのだと思いますが、戸谷の描かれ方も違っていると思います。
 原作での戸谷は、ものすごく無造作に女性を扱っていて、人を軽んじている部分がある。また、原作では戸谷が軸となって女性たちがその周りを回っていたのが、ドラマではトヨが豊美になったことで、戸谷と豊美、戸谷とチセ、戸谷と隆子……とそれぞれの女性との間にある中心点が移行している。時には戸谷も女性の周りを回っていたり。
 やはり女性が描くことによって変わった視点や軸があって、そこが原作とは違う、戸谷の軽妙さとか面白味みたいなものにつながっているのと思います。原作よりも戸谷が苦労しています。

―― 戸谷は、上川さんから見てどういう男性だと思いますか?

 多少のデフォルメや強調はありますけれども、それほど極端に現実から大きく離れているわけではない、普通の人間だと思います。僕は、この作品は、そういう普通の人間が悪いことをしでかす物語だと思うんです。例えば、日本を牛耳ってやろうとか、裏社会にのさばるだとか、そういう巨悪を対象とした物語ではない。駅ですれ違っているかもしれない誰かが、人知れず行っていることだと思って取り組んでいます。

―― 豊美をはじめ、女性たちはなぜ戸谷に惹かれるのでしょうか?


 同性からの見解かもしれませんが、なぜ戸谷という男に惹かれるのか、僕自身理解するのが難しいです。演じている本人が言っているので、間違いないです(笑)。むしろ、あのキャラクターに惹かれてくれる女性がいるならば、「どこに惹かれるんですか?」とこちらからお伺いしたいくらいの気持ちです。
 戸谷が選ぶ行動や言動は、やはり撮影が進んだ今に至っても100%の共感を持って見たり聞けたりするものではないですね。相対する人によって全く変わる男ですので、多面性は間違いなくあると思うんですけど。

―― ここまで撮影した中で、特に印象に残ったシーンは?

 シチュエーションや環境も含めて、やはり豊美殺しのシーンですね。これまで、刀では何十人も切っているんですけど、素手で人を殺したことってないんですよ。もちろん芝居で、ですよ(笑)。その感覚ってまさにヒフ感覚で、演技とはいえ、自分の中で起こってくるざわつきみたいなものは終始感じていました。役でやっていることとはまた別の根幹的な部分で。得がたい体験でしたね。
 もうひとつは、第二章で、豊美をアパートまで送った戸谷が先に車を降りて、フロントガラス越しに豊美と目を合わせるシーン。演出の松田監督がシチュエーションだけ作って僕らに預けてくれたのですが、セリフがないとこで何かを表現する、ある意味、シーンが成立するかしないかという際どい感覚をものすごく感じたシーンでした。終わってみるまで、自分でもどう転ぶかわからなかったんですよ。

―― 戸谷はセリフ以外の目線や表情のお芝居が多いような気がします


 戸谷という男を特徴づけるではないのですが、これまで自分が手がけてきたパーソナリティとはやはりどこか違うと思っているので、その盛り込みどころのひとつに目線があります。すごく誠実なことを言っていながら目が合っていなかったり、反対に腹に一物あるような言葉をまっすぐ見据えて言ったりだとか、どこかイレギュラー的な要素を盛り込めればと思いながら、毎シーン演じています。

―― 表情といえば、第二章の最後の戸谷の笑顔は印象的でした

 あれは、まさに現場で生まれたものなんです。ちょうどその日は、第三章を演出する藤田監督の現場インでもあって、同じ場所で同時に松田監督と藤田監督が采配を振るったのですが、その第二章の最後のカットのおふたりの解釈が全く違ったんです。だから、第三章の冒頭では微笑んではおらず、戸谷の姿を見た豊美が出て行くというシーンになっているんですね。
 ホームページだから明かしますが、僕は第二章の最後の笑顔は、あの瞬間、豊美のイメージの中だけで見えた顔だと思ったんです。現実の戸谷は笑ってはいないと。
 この撮影までは、戸谷という男に悪人的要素を極力盛り込まないでやってみようと思っていたのですが、あのシーンだけは、あの表情は現実ではないという解釈の元に、悪人的要素を前面に、いやらしいぐらい出してみました。ああいうちょっと変顔に近いような顔になったのは、同時にお二人の監督が違うことを言ったので思いついたという、バックグラウンドがあったが故なんです。

―― 今後のみどころと、視聴者のみなさんへのメッセージをお願いします


 悪いことをしたらこうなるんだと思ってください。あとは、残り2話、どんどん美しくなる米倉さんですね。本当に華麗に変身しますよ。